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災害に強い家に暮らすために

近い将来、発生が危ぶまれる南海トラフ地震。災害に備え、安全・安心な家に暮らすポイントを、その道の「プロ」にうかがいました。

小沢英二

愛媛県建築住宅課
一級建築士
特定建築基準適合判定資格者

小沢 英二さん

愛媛県庁建築住宅課建築指導係において、建築物の耐震改修の促進に関する法律などを担当。木造住宅の耐震化促進のため、県内の補助制度の拡充や、手軽に耐震診断ができる『耐震診断技術者派遣制度』の導入など、各市町が行う耐震化事業の環境整備に携わる。耐震化の重要性を伝えるため、県内各地の公民館での耐震出前講座をはじめ、希望する小学校での耐震出前授業の先生役を務めると共に、テレビやラジオ放送による耐震広報活動も行う。キャッチフレーズは【守るけん あなたの命 耐震化!】

南海トラフ地震は震度6~7クラスを想定

東北や熊本などにおける地震の被害状況を新聞やテレビで見聞きし、地震の怖さを改めて感じている人も多いことと思います。気になるのは、近い将来起こるだろうといわれている「南海トラフ地震」のことでしょう。南海トラフでは、これまでに100~1500年程度の間隔でマグニチュード8クラスの地震が繰り返し発生しています(表1参照)。直近の昭和南海地震からすでに70年経っていることで、「近い将来起こるだろう」といわれているわけです。
地震調査研究推進本部(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)によると、南海トラフ地震が発生する確率は30年以内で70%程度、50年以内では90%と試算されています。また愛媛県の調査では最悪の場合、南海トラフ地震の震度は一部を除く全県域で震度6弱以上、低地では震度6強以上、平野の一部では震度7と想定されています。
これらの想定を踏まえると、大地震に対する備えが必要であること、できるだけ早く備えた方がよいということが分かります。

南海トラフ地震の歴史

昭和56年5月以前に建てた旧耐震基準の家は危険!

今回のテーマ「災害に強い家に暮らすために」について地震に対する備えで言えば、現在の耐震基準に合った家であるかどうかが、重要なポイントになります。これから新築をする場合は、その基準を満たしているわけですが、昭和56年(1981)5月以前、つまり耐震基準が改定されるより前に建てられた家は、現在の基準に合った家にすることが重要です。
現在の建築基準法で定められている耐震性能は「中地震(震度5強)で損傷しないこと」「大地震(震度6強~7程度)で大破・倒壊しないこと」の2点が考慮されています。ところが、昭和56年以前に建設または着工した家は「大地震で大破・倒壊しないこと」という性能が考慮されていません。さらに法制定以前の古い家については、耐震基準を考慮せずに建てられています。
実は阪神・淡路大震災において、木造・非木造ともに昭和56年以前に着工した旧耐震基準の建築物に多くの被害が見られ、新耐震基準の建築物の被害は少ないという状況でした(グラフ2参照)。

阪神淡路大震災

全市町で耐震化をサポート合計116万円以上の補助金

昭和56年5月以前に建てた家にお住まいの方は、どのように備えればいいのかというと、現状の基準に合った家になるよう「耐震改修」を行っていただきたいです。まず耐震診断を受け、診断結果に応じて必要な耐震改修を行います。たとえば「古民家」であっても耐震改修によって現在の耐震基準に合った家に変えることは可能です。
愛媛県は耐震診断・耐震改修の補助金制度を設けており、旧耐震基準で建てられた木造住宅についての耐震診断・耐震補強を、合計116万円以上(標準的な場合)の補助金でサポートしています。耐震診断は今年度から新設された派遣制度を利用すれば、3000円または9720円で受けることができます。県内すべての市町で補助を行っていますが、補助金額等については市町によって異なります。平成29年度の具体的な内容は現時点では、まだ決まっていないので、4月以降にお住いの市役所・役場にお問い合わせをお願いします。
この補助金制度は戸建ての木造住宅はもちろん、一定の条件を満たしていれば店舗併用住宅での利用も可能です。

耐震化100%になれば人的被害は約19分の1

旧耐震基準の建物で耐震改修を済ませている割合は、全国平均が82%であるのに対して愛媛県は75%と低く、木造住宅に限って言えば62.5%という状況。耐震改修は地震から命を守るための備えとしてぜひ行っていただきたいです。
阪神・淡路大震災では、建物の倒壊や家具の下敷きとなったことによる死亡者が、全死亡者の8割以上を占めていました(グラフ3参照)。愛媛県の地震被害想定では耐震化率100%になれば、地震時の建物倒壊・火災による人的被害(死者)は約19分の1になるとの推計結果が出ています(グラフ4参照)。これらのデータからも命を守るためには、耐震化による地震で倒壊しない家づくりが重要であることが分かります。
愛媛県では耐震化の補助金制度を含め、地震時の減災や建物の耐震化に関する情報をホームページやパンフレット等で提供しています。「災害に強い家に暮らすため」の情報としてご利用ください。

耐震化による減災効果